自己啓発本が好きで、いろんな類のものをよく読む。
現状を変えたくて手に取り、読みながら深く納得し、読了後は生まれ変わったみたいに希望に満ち溢れる。
そんな体験がやめられない。
ただ、いまだに相性の良い本に出会ったことがない。
無理して良い男と付き合い、自分がわからなくなり疲弊してしまうような、そんな感じだ。
例えば、嫌なひととの付き合い方に関する本だとする。
【笑顔で挨拶しましょう。そうすることで、どんな相手もあなたを必要なひととして認識してくれます。】
【悪口を言っているひとがいたら、距離を置きましょう。】
【嫌だと思う相手には、嫌というパワーが伝わります。ありがとうと心の中で唱えましょう。】
著者のエピソードに深く納得し、嫌いな上司もみんな人間なのだから、と心から穏やかで優しい気持ちになり、顔を上げるとまるで世界が変わったように美しく映り、みんな幸せになれば良いのに(キラキラ)などと思う。
そして翌日、新しいわたしは、朝が来たことに感謝し、生きている喜びを感じ、白湯とか飲んで、笑顔で出社する。
みんな、おはよう。今日も天気がいいね。ほら、鳥の鳴き声が素敵ね。
会社の扉を開けると、上司の機嫌が悪い。
わたしは、大丈夫。彼はきっと疲れている。彼の機嫌とわたしは無関係だわ。
「ありがとう。」心の中で唱える。
ほら、大丈夫。
いつもみたいに心が動揺しない。
「はああああ。」
上司が大きなため息をつく。
わたしはもう一度、「ありがとう。」と強く唱える。
「ちっ。」
上司が舌打ちをする。
わたしは昨日の帰り際、上司が忙しそうにしていたため引継ぎができていないことを思い出す。急ぎではない内容だったので今日伝えるつもりだったのだが、まさかそのことを怒っているのでは、と、とたんに緊張する。
「おい、○○」
わたしではない名前を呼び、業務のミスを怒鳴りつける。
自分ではないことに安堵したが、今度はふつふつと怒りが沸いてくる。
なぜ、みんなの前で怒鳴るのだろうか。かわいそうだと思わないのだろうか。
まるで自分が怒鳴られている気分になり、胸が押しつぶされそうになる。
ありがとう、は結局できなかった。機嫌の悪い上司に優しい気持ちにはなれなかった。自分と彼の機嫌は無関係だと考えることはできなかった。
わたしは変われていなかった。
繰り返しだ。
できない自分にがっかりし、落ち込む。
そして忘れたころに、また次の本に手を出すのである。
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